W.A.Mozart オペラ「ドン・ジョヴァンニ」
日本語訳詞 by桂木農

※一部をサンプルとして掲載します。
※オペラ・コミーク形式での公演用のためセッコは台詞となっております。


第一幕

《1.Introduzione》

レポレッロ 朝から晩まで働いて、寝る暇食う暇ありゃしない。
       我侭勝手な御主人に、奉公するのも一苦労。
      お金持ちにはなりたいものさ。けれど、太鼓持ちは、
       おっとっとっとっと、ちょいとご勘弁だよ。

      全く大した正直者さ。旦那は女を侍らせ、
       あっしは一人きりでお留守番だ。お留守番だ。
      お金持ちにはなりたいものさ。けれど太鼓持ちは、
       おっとっとっとっと、ちょいとご勘弁だよ。

      おやま、人影が!
       こりゃま、まずい所へ誰だか知らぬがお出ましだ!
      見付かったら大変だ。おっとっと・・・ちょいと隠れてよう。

(仮面のジョヴァンニ、アンナ、登場)
アンナ   捕まえたからには放しはしない!

アンナ  ┏            諦めはしないわ!貴方は→
ジョヴァン┣私が誰だかも判りはすまい!  おろかなおなごだ。
レポレッロ┗          またもや、も め ご とだ。

アンナ  ┏けっして、決して、逃がさないから!
ジョヴァン┣ いいだろう逃げて み せ るさ!
レポレッロ┗   い つ も の こ と だ!

アンナ   ああ、誰か、救けて!
ジョヴァン ああ、黙れ、売女め!

≫≫≫≫≫ 中略 ≫≫≫≫≫

(ジョヴァンニ、騎士長を突き刺す)

ジョヴァン┏       ああ、あわれな男よ。  悶え苦しみ
騎士長  ┣ああ、無念だ・・・終りか。悪 魔の 手 先め・・・
レポレッロ┗      ああ、 あわれ!  ああ、むごい!

ジョヴァン ┏ながら。   むね が 張 り 裂け、紅く
騎士長   ┣ああ、     胸 が 張 り 裂け・・・
レポレッロ ┗  あっしはもう胸が張り裂けそうだよ。

ジョヴァン  ┏血溜まり。老・・・い た いのちは、
騎士長    ┣   老・・・い・・・た いのちは、
レポレッロ  ┗     老いぼれ果てた生命の火は、

ジョヴァン┏ああ、あ われな やつよ。こ・・こに 消え・・去る。
騎士長  ┣     ああ、 ここ・・・・に 消・・え・・・る。
レポレッロ┗何とも哀れな年寄の生命は、この暗闇に消えて無くなる。

(騎士長、息絶える)

第2場
[台詞]
ジョヴァン レポレッロ!何処に隠れているんだ?

レポレッロ はいはい、レポレッロはここにおりますよ。
      で、そう言う貴方様は?

ジョヴァン お前の目の前だ。

レポレッロ おお、二本の脚がある。
      それじゃあ、ちょいとお尋ねしますが・・・
      さっき死んじまったのは、一体全体どっちなんです?
       憐れな爺さんですか、それとも、女たらしの・・・

ジョヴァン この阿呆!(レポレッロに拳骨を一つ)
      なんて口の聞き方だ。

レポレッロ やあ、あの手の速さ・・・旦那に間違いない。
      流石は旦那だ。今夜もお手柄ですな。
       娘を押し倒し、親父を刺し殺し・・・

ジョヴァン 望まれた事をやった迄さ。

レポレッロ 望まれた事ね・・・
      じゃあ、あのお嬢さんも望んだってんですかい?

ジョヴァン うるさいぞ!
      召使なら召使らしく、二枚舌よりは二本足を動かす事だ。
      (拳骨を振り上げ)もう一つ褒美が欲しくなければな。

レポレッロ どうか、そいつはご勘弁。
      はいはい、付いていきますとも、お喋りせずに何処までも。
      (追って退場)

第3場
(オッターヴィオ、アンナ、召使達、登場)
アンナ   こっちよ、急いで!早く、お父様をお救けして!

オッターヴ 愛しい貴女の為ならば、生命を賭して救けます!
      けれど、肝心の敵は?

アンナ   確かこの辺に・・・(遺骸を見付け)
      ああ!

《2.Recitativo accompagnato e Duetto》

アンナ   ああ、これはどうして、こんな事になって、信じられない!
      お父様、お父様、どうか起きて!

オッターヴ お父さん・・・

アンナ   あの悪魔の仕業ね!
      血、この色、この顔・・・血に塗れて、青ざめて!
      息も消えて、もう冷たく。お父様、お父様、どうか起きて!
      眩暈が・・・もう駄目・・・
オッターヴ 皆、救けてくれよ!この人を。
      薬だ。持ってきて、そうだ、速く、さあ速く。
      ああ、アンナ!僕の恋人。苦しみに死んでしまいそうだ!

アンナ   ああ・・・

オッターヴ 気が付いた。どうか手を貸してくれ。

アンナ   お父様・・・

オッターヴ 哀れなご老人の亡骸を運び去っておくれ。
      愛する人、落ち着いて・・・大丈夫。

アンナ   どうか離れてよ! ああ、独りにして!
      天蓋孤独の身の上だもの!

オッターヴ どうか聞いて、話を。
       どうか聞いておくれ。君を想っている男の言葉を・・・

アンナ   待って。これは、何ていう事。ね、待って、貴方・・・
      お父様は何処?

オッターヴ 彼は・・・ああ、父も恋人も共に、僕が務めましょう!

アンナ   ああ、お父様、お父様は何処?

オッターヴ ああ、父も恋人も共に、父も恋人も僕が務めましょう!

アンナ   さあ、復讐を誓って!この血にかけて。

オッターヴ 復讐を!復讐を、きっと誓うとも!君の瞳にかけ!

アンナ  ┏恐ろしき誓い!忌まわしき呪い!
オッターヴ┗恐ろしき誓い!忌まわしき呪い!

アンナ   ┏戦き震え、我が心は千々に乱れる運命の時よ!
オッターヴ ┗戦き震え、我が心は千々に乱れる運命の時だ!

アンナ   復讐を誓って!きっと・・・
オッターヴ 復讐を!きっと、誓うとも!この愛のため!

アンナ  ┏恐ろしき誓い!忌まわしき呪い!
オッターヴ┗恐ろしき誓い!忌まわしき呪い!

アンナ   ┏戦き震え、我が心は千々に乱れる運命の時よ。
オッターヴ ┗戦き震え、我が心は千々に乱れる運命の時だ。

アンナ    ┏恐ろしいさ   だ めのとき よ。
オッターヴ  ┗    恐ろしい運 命 の時だよ。

アンナ     ┏恐ろしいさ   だ めのとき よ。
オッターヴ   ┗    恐ろしい運 命 の時だよ。

アンナ  ┏この血にかけ、仇を討つ!この血にかけ、仇を討つ!
オッターヴ┗この血にかけ、仇を討つ!この血にかけ、仇を討つ!

アンナ    ┏この恨みを、この呪いを、晴らすのよ!
オッターヴ  ┗この恨みを、この呪いを、晴らすのだ!

(アンナ、オッターヴィオ、退場)

第4場(ジョヴァンニ、レポレッロ、登場)
[台詞]
ジョヴァン さて、思い立ったが吉日だ。為すべき事は為すべき時に。
      ん・・・何か言いたそうだな。

レポレッロ 旦那様。私が申し上げようとしておりますのは、
       とても大切な話なのでございます。

ジョヴァン その様だな。

レポレッロ しかも、重大な事なのでございます。

ジョヴァン そんなに大事なら、さっさと言ってしまうが良い。

レポレッロ ですから、その・・・約束して頂けますか?
       何を申し上げても決して怒らないと。

ジョヴァン ああ、名誉にかけて誓おうじゃないか。
      だが、さっきの決闘について
       難癖を付けようというのなら、話は別だぞ。
      あれは正統で公明正大な決闘だったのだからな。

レポレッロ 二人っきりで・・・

ジョヴァン ああ、二人っきりだ。

レポレッロ 内緒の話・・・

ジョヴァン ああ、誰にも内緒だ。

レポレッロ では、まあ、率直に言って・・・

ジョヴァン 焦れったいな。

レポレッロ あっしのお慕い申し上げる旦那様。
      貴方の暮らし振りときたらもう、
       豪快で老獪で痛快で奇っ怪で・・・
      いや、ですからね。要するにあっしの言いたいのは、
       このままじゃ旦那は丸っきり、ゴロツキってことでさ!

ジョヴァン よくも言ったな!この阿呆!
      今日こそ、その口を引き裂いてやる。

レポレッロ 約束したじゃありませんか!怒らないって!
ジョヴァン 約束したって?・・・ああ、そうさ!
      形在るもの、いつかは壊れる。約束もいつかは破られるんだ。
      さあ、挽肉になりたいか、ソーセージがいいか!

レポレッロ 旦那がそうおっしゃるなら、あっしも取り消します。
      金輪際、愚痴は言いません。
      貴方様が悪党か野蛮人かなんて、考えもしません。

ジョヴァン ふん、それでこそ私の家来だ。
      お前には、私が何の為にここにいるのか判っておらん様だな。

レポレッロ またぞろ、新しい女をものにしようってんでしょ。
      それ位判らぬようでは、旦那の記録係は勤まりませんよ。

ジョヴァン 大した悪党だ。まあ、聞け。

(ジョヴァンニが語ることを、レポレッロが書き取る。)

ジョヴァン “愛の旅人、恋の職人であるこの私が、
        ふとした出逢いで、さる麗しき御婦人に恋をした。
       二人は互いに見初め合い、恥じらうその手に手を重ね、
        今宵、こなたの別荘で、睦み合おうと約束したのだ。
       ああ、その腕のしなやかさ! その胸元の芳しさ・・・”
      おや・・・何処かで女の匂いがする。

レポレッロ “その鼻の利く事、犬も畏れいる。”

ジョヴァン (女を見付け)しかも一点の曇りも無い美女だ。

レポレッロ “そう言う旦那の目玉こそ、一点の曇りもありゃしない。”

ジョヴァン 隠れて様子を窺うとするか。

レポレッロ “その性悪な魂は、紙より薄く、よく燃える”とくらぁ!

(ジョヴァンニ、レポレッロ、隠れる)

≫≫≫≫≫ 中略 ≫≫≫≫≫

第9場
[台詞]
ジョヴァン あの無礼者は、風と共に去りぬ。
      さて、可愛いツェルリーナ。
      何をそんなに泣いているんだい?

ツェルリナ お殿様、あの人は私の夫です。

ジョヴァン あれにその資格があるもんかね?
      私には耐えられないのだ。
      誇り高き騎士の生命を奉ずるに値する
          この象牙の手、黄金の眼差し、薔薇の頬が、
              あの粗暴な百姓風情に傷つけられるのが・・・
      ああ、花園を踏み荒らす者から護れ!
      私の魂がそう叫んだのだ。

ツェルリナ ですが、お殿様。
      私は花嫁で、花婿はあの人なんです。

ジョヴァン そんなくだらない約束の為に、
            素晴らしい宝をドブに捨てる事はない。
      君の運命を信じる事だ。
        月が高処へと昇るように、君もやがては貴族の身だ。

      そうでなくては、神様が君に与えてくださった筈がない。
          このしなやかな手を、滑らかな肩を、可愛いお耳を、
             それから、心惑わすこの瞳、魅惑の唇を・・・

ツェルリナ ああ、駄目。嫌です・・・

ジョヴァン 何をそんなに恐れているんだい?

ツェルリナ そんなこと仰っても、結局は一時のお遊びなのでしょう?
      皆、言ってますわ。貴族の恋は一朝一夕、
          手軽に拾われた女は、手軽に捨てられるんだって。

ジョヴァン それは根も葉も無い噂、嫉妬から出た当て付けだ。
      騎士が誓いを立てる時、その眼は真実の光に充ちる。
          ご覧、私のこの眼が誓いの証人だ。結婚の誓いの!

ツェルリナ 結婚?何方の?

ジョヴァン 勿論、君と私とのさ。
      あそこに見える別荘が、二人のエデンの園になる。
      ああ、我が心の宝石、永遠の妻よ!
        今宵、こなたの別荘で、燃え尽きるまで燃え上がろう!

《7.Duettino》

ジョヴァン あちらで二人愛し合えば、悩みは遠く去り行くだろう。

ツェルリナ 信じられなくも、信じてみたいの。
        幸せが遠く続くのならば、この夢を・・・

ジョヴァン 可愛い娘よ、さあさ。

ツェルリナ 可哀相なマゼット・・・

ジョヴァン 変わるのだ、全て。

ツェルリナ そっとさやぐ誘いに揺らぐ想いは、変わってしまうわ・・・

ジョヴァン さあさ、おいで。
      あちらで二人・・・

ツェルリナ 信じられなくも・・・

ジョヴァン 愛し合えば・・・

ツェルリナ 信じてみたいの。

ジョヴァン 悩みは遠く・・・

ツェルリナ┏遠く忘れ去り  かわいそうなマゼット そ っ と
ジョヴァン┗     可愛い娘よ、さあさ。変わるのだ、さあさ。

ツェルリナ さやぐ誘いに揺らぐ想いは、変わってしまうわ・・・

ジョヴァン 共に行こうぞ。

ツェルリナ 共に!

ツェルリナ┏共に行きましょう。共に悩みを慰め合うの。
ジョヴァン┗共に行こうぞ  。共に悩みを慰め合おう。

ツェルリナ ┏共に行きましょう。共に悩みを慰め合うの。
ジョヴァン ┗共に行こうぞ  。共に悩みを慰め合おう。

ジョヴァン (手を差出し)
      どうぞ。

ツェルリナ どうぞ。
      さあさ。

ジョヴァン さあさ。

ツェルリナ┏愛を語りに、愛を紡ぎに、さあ、共に行きましょう。
ジョヴァン┗愛を語りに、愛を紡ぎに、さあ、共に行こうぞ。

(ジョヴァンニ、ツェルリーナ、手に手を取って去ろうとする)

≫≫≫≫≫ 以下略



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