【N.1---Introduzione】
全員 人の世の楽しみよ。
鳥は歌い、そよ風が吹き渡る。
今や春の日差しに、甘き愛が萌えるわ。
新たな春の日差しに、新たな恋が萌えるわ。萌えるわ。
人の世の楽しみよ。人の世の楽しみよ。
鳥は歌い、そよ風が吹き渡る。
今や春の日差しに、甘き愛が萌えるわ。
新たな春の日差しに、新たな恋が萌えるわ。萌えるわ。萌えるわ。
ラミロ 苦しみの狭間には雲が晴れる時は無く、
闇を照らす光も無い。闇を照らす光も無い。
市長 歓びに胸は躍る。音を奏で、歌を唱う。歌を唱う。
サンドリーナは儂のものだと。サンドリーナは大事な宝だと。
サンド 不幸な私、不毛な悩み。冷えた心を押し潰す
人に言えぬ嘆きが襲うわ。襲うわ。
ナルド (セルペッタを見て)
報われぬこの想い。糠に釘、でも尚も、
あの顔に見蕩れるんだ。ああ、焦がれるんだ。
情け知らずの女神だ。情け知らずの女神だ。
セルペ (市長を見て)
泥だらけの小娘に、この私を差し置いて、惚れるなんて。
見てなさいよ。怒らせたら報いが・・・。
見てなさいよ。怒らせたら報いがあるから。
ラミロ 悲しみは潜めるしか・・・。
市長 手を貸そうか サンドリーナ、ほら。サンドリーナ、ほら。
サンド そんな剰りなお情けは。見境のない親切は。
ラミロ いつの日にか報われようか、不毛な日々は。
市長 剰りにも愛おしいのだ。離せぬのだ、片時も。
セルペ 男は誰でも皆同じね。
口先ばかり達者でも、間抜けね。同じね。
全員 人の世の楽しみよ。
鳥は歌い、そよ風が吹き渡る。
今や春の日差しに、甘き愛が萌えるわ。
新たな春の日差しに、新たな恋が萌えるわ。萌えるわ。萌えるわ。
[台詞]
市長 良いぞ、良いぞ、立派なもんだ。
儂の可愛い庭師さん、
春に花咲く草木の中で、これ程立派なものはない。
そう思わんかね、ラミーロ君。
ラミロ それは言うこと御座いませんが、
お庭がいくら晴れやかでも、私は曇りっぱなしでして。
市長 ふん、糠に釘という訳か。
(唐突に)
然るに、そなた、愛しのサンドリーナ、
何だってそなたまで憂鬱な色を?
セルペ 忌々しいったらありゃしない。
あんな女が来たばっかりに、私のことはお構いなし!
ナルド (セルペッタに)
俺のことなど見向きもしない!
市長 さあさあ、儂のお気に入りさん、一体何が苦しいのかな?
セルペ 花粉症なのよ。
サンド そのようなご親切、身分不相応ですわ、御主人様。
ナルド ちょっとは構ってくれたって・・・
セルペ ええ、ええ、噛みついてあげるから。
市長 さあラミーロ殿、それからサンドリーナ、
ここは是非とも愉快に行こう。
儂の大事な姪っ子が、つまり今宵の花嫁が
ここに間もなくやって来よう。
結婚祝賀の披露宴、晩餐会に舞踏会、
準備する事すべき事、備えあればの憂い無し、
暗い顔など真っ平御免、明るく目出度く喜ばしく、
二人の門出を祝って下され。
≫≫≫≫≫ 中略 ≫≫≫≫≫
第6場 (屋敷の回廊)
(市長、アルミンダ、登場)
市長 可愛い儂の姪っ子よ、ここで暫く休みなさい。
間もなくやって来る頃だ、お前の花婿が。
アルミ こんなに遅刻するなんて、何て不作法な人でしょう。
先に来て待っているのが礼儀というものよ。
市長 奴にはまだよく解ってないのかも・・・
アルミ 解ってないのよ、私がどんなに強い女か。
市長 まあ、ここは抑えて穏便にな。
お前の腹立ちもじきに治まるだろうて。
アルミ じゃあ、座りましょう。さあ、椅子を持ってきて頂戴!
セルペ はい、椅子ですね、椅子ですね。
解りました、怒鳴らないで、聞こえてますので。
アルミ だあれ、これ?
セルペ 小間使いですよ。
アルミ まあ、それなら、先ずは私に敬意を表し、
役目を果たしたその後は、この手にキスをするもんじゃなくて?
セルペ 今しようとした所で・・・
アルミ 行っておしまい。
市長 行くがいい。
セルペ では、失礼。
アルミ あー、小娘、小娘。
セルペ ああ、我慢、我慢。
アルミ 私の花婿について何か聞いてる?
セルペ いいえ、お嬢様、でもきっと立派な・・・
アルミ 行っておしまい!
市長 行くがいい。
セルペ (独白)こんな女とはうまくゆきっこないわ。(退場)
アルミ 教えて、伯父様、ご存じならね。
花婿様は優しいお方?
市長 それはそれはもう・・・
セルペ (駆け込んできて)
旦那様にお嬢様、早く早く。立派な馬車が参りましたよ。
アルミ 伯爵様ね!
市長 さあ、お迎えだ。さあ、皆の者。
めいめい役目を果たすのだ。
姪御よ、判っておるな?
(セルペッタに)
屋敷の皆に報せるんだ。
召使い、小間使い、下男に下女に、庭師に馬方・・・
セルペ 皆こっちよ!
アルミ 先ずは威厳のある所を見せておきましょう。
安売りはしないんだから。
第7場
【N.6---Aria】ベルフィオーレ伯爵
伯爵 (登場、おおげさに挨拶して)
さても艶やかな魅惑の顔ばせよ。
魅力のカタマリだ。カタマリだ!
夢にも見ぬ見目良き様子。
礼儀尽くし、格式張って畏み畏みまつる。
女神の様な、絵になる顔、嘘の様な美しさ。
息が詰まる、眼が眩む麗しさよ。
手も足も出ないよ。手も足も出ないよ。
さても晴れやかにご機嫌を伺えば
止ん事無き雅やかさよ。
我は何故か知らねど眩暈を催しまつる。
女神の様な、絵になる顔、嘘の様な美しさ。
息が詰まる、眼が眩む麗しさよ。
手も足も出ないよ。手も足も、手も足も出ないよ。
≫≫≫≫≫ 中略 ≫≫≫≫≫
第9場
セルペ こんなお屋敷、もう御免だわ。
あのお嬢様が来てからというもの、
少なくとも百遍は呼び付けるんだもの。
あら、ナルドが来た。
あの人には期待してるのよ、溜息まじりの音楽を。
気付かぬ振りして歌うとしましょう、
粋な小唄の新たな節を。
若い娘という生き物が、どんな男を好むのか。
【N.9a---Cavatina】セルペッタ
セルペ 神様お願い、私の好みはこんな男の人よ。
言葉も優しく、心を尽くして愛して下さる、
泥の中に咲く蓮の花の様な殿方を。
けれど、泥まみれは願い下げですわ。
本当の泥まみれは、
泥まみれは・・・願い下げですわ。
願い下げですわ。願い下げですわ。
[台詞]
ナルド ははあ、若い娘って生き物は
こうやって自分の気持ちを表すんだな。
こっちも歌って答えよう。
【N.9b---Cavatina】ナルド
ナルド 神様お聞きを、あの娘の好みはこんな男なんだとさ。
言葉も巧みに、心を操り愛を語らう、
泥の上に浮く根無し草の様な奴ばらを。
けれど、玉の輿は願い過ぎですな。
お里に似合わぬ、
似合わぬ・・・願い過ぎですな。
願い過ぎですな。願い過ぎですな。
[台詞]
セルペ 大したものね、道化の旦那。(★ピエロと読むも可)
誰の許しで忍んで来たの?
ナルド (芝居がかって)
我が麗しのセルペッタ、過ぎた無礼を赦されよ。
扉が開いておりましたもので。
セルペ 御主人様に御用でしたら、お隣のお部屋においでですわよ。
お行き・・・お行きったら。
ナルド そうやって俺を追い出すのかい?
でも、ほら、愛しくて愛しくて、
いつも君を、そう、この胸に刻み込んでるんだ。
セルペ 何を刻み込んでるって言うの? 何度言わせたら気が済むの?
あんたなんて何とも想っちゃいないの。
ナルド そりゃ酷い、あんまりだ!
でも、ほら、愛しくて愛しくて・・・
セルペ この際、はっきり言っときますがね。
あんたは私には相応しくないの。
ナルド 何処がどう?
セルペ 好みじゃない所。
ナルド 堪忍してよ。
でも、ほら、いつかきっと俺が必要になるから。
(セルペッタ、笑う)
ナルド 笑うのかい?
セルペ ええ、笑うわ。
あんたときたら、私が彼氏を作るのは大仕事だと信じているけど
男なんて沢山いるんだから。
たった一つの目配せで、百人の恋人が出来るんだから。
【N.10---Aria】セルペッタ
セルペ 男は誰も一目惚れ虜になる。
私の姿愛らしさ堪えきれず、
赤くなるわ青ざめるわ、止めどもなく口説き出す。
「可愛いお目々、宝石の様な真っ赤な頬」と。
「お洒落な姿、おしゃまな素振りよ、
変わらぬ想いを叶え給え、ああ、恋人よ。
永遠の、誓いに、応え給え、ああ、恋人よ。ああ、恋人よ。」
誰もが恋に逆上せるの。
口々お世辞並べるの。
落ち着き無く、勇み足で、懲りもせずに、いじらしく、讃えるの。
「素敵な人、野の花さえ色褪せるよ。
眩しき顔、お日様さえ身を恥じるよ。」
誰も彼もこんな具合に、止めどもなく口説き出す。
「可愛いお目々、宝石の様な真っ赤な頬」と。
「お洒落な姿、おしゃまな素振り、
変わらぬ想いを叶え給え、ああ、恋人よ。
後生だ、希望だ、魔性の、女将だ。
お洒落な姿、おしゃまな素振りよ、
変わらぬ想いを叶え給え、ああ、恋人よ。
永遠の、誓いに、応え給え、ああ、恋人よ。ああ、恋人よ。」
でも私はお淑やかに角を隠し、慎み深く、憐れみ深く、微笑むの。
答えもせず拒みもせず色を隠し、頭を垂れ、恥じらい見せ、
そそくさと、そそくさと、お暇致しましょう。
お暇を、致しましょう。
(歌の終わりで退場)
≫≫≫≫≫ 中略 ≫≫≫≫≫
第2場
伯爵 ああ、もう駄目だ!
サンドリーナに逢ってこの方、心の安まる時が無い。
何をしたものか・・・もう一度逢いたいが・・・
どこでだって・・・ずっと捜していたんだ。
(アルミンダとぶつかり、お辞儀して)
これはこれは愛しのお方・・・
アルミ まあまあ、どうか仰って、是非とも知りたいわ。
貴方が必死でお探しなのは、何と仰せの御婦人か。
伯爵 (後ずさりして)
あ、ええ、言いますとも・・・
アルミ 逃げないで。
伯爵 私が参りましたのは・・・信じて下さい・・・
(独白)ここは素直さが肝心だ。
捜しておりましたとも、貴女を、おお、麗しの君・・・
アルミ でも、お聞き。
伯爵 (より後ずさりして)
どうぞ、どうぞ。
アルミ そんなに離れては出来ませんわ。
伯爵 貴女の為に私は狂い、
貴女を想って死んでしまいます。
アルミ お黙り、大嘘吐き!
穴があったら入りなさい。
跪くなら、あの女になさい。
伯爵 でも、どうかせめて・・・私はありのままを・・・
アルミ 言う事ができて?
「サンドリーナに逢ってこの方、心の安まる時が無い。」
裏切り者、それも私の目の前で。
貴方こそは真実の欠片も無い恋人、
私と一緒になるという日に、こうやって私を欺くのね。
これが悲劇でなくて何?
【N.13---Aria】アルミンダ
アルミ 心無い貴方、実り無い心、
その胸引き裂き、心変わりに釘を刺すのよ。
道を外れた身の程知らず、哀れな姿、溜息が出る。
胸を引き裂き、心変わりに釘を刺すのよ。
道を外れた貴方、身の程知らぬ哀れな人、
道を外れた貴方、身の程知らぬ哀れな人、
溜息が出るわ。溜息が出るわ。
上塗りの恥を、今尚重ねる。
失望の思いが溢れ出るわ。溢れ出るわ。
これが報いか、甲斐無き心!
心尽くしの愛の報いか!
怒りの炎と、情けの涙、二つ心の狭間で迷うわ。独り迷うわ。
罪深い貴方、浅はかな事、
その胸引き裂き、浮気心に刻み込むのよ。
神にも背き、顧みもせず、呆れた仕打ち、涙も涸れる。
胸を引き裂き、浮気心に刻み込むのよ。
神にも背く貴方、顧みもせぬ呆れた人、
涙も涸れるわ。涙も涸れるわ。
裏切りの恨み、晴らさではおかぬ。
復讐の思いが燃え盛るわ。
この恨みが、この怒りが燃え盛るわ。
(退場)
第3場[台詞]
伯爵 ああ、あれじゃ女というより鬼・・・
(セルペッタ、登場し)
セルペ 旦那様・・・
伯爵 うわわわ・・・
セルペ 何か御座いました?
伯爵 何も何も、ちょっと心に想う事があってね。
セルペ こちらは申し上げる事があるんですが、いいですか?
ただ今、花嫁様を目に致しました所、
檻から出たライオンのように、復讐だ復讐だと、
それも貴方様への。
伯爵 でも・・・まあ、そのうち怒りも治まるさ。
セルペ まあ、そんな事を仰るなんて、ご存じ無いのですね、
疎んじられるとなると、女は魔物じゃなくて獣になるって事を。
ご忠告申し上げますが、今すぐ行って赦しを請う事ですわ。
伯爵 どうしてまた?
セルペ 服従に敬意。
それこそが男の決まりで、世の流行り・・・
伯爵 ああもう、地獄へ落ちるがいい!
決まりも流行りも男冥利も。
(退場)
第4場
セルペ 哀れな方ね。あんな変な女とだなんて。
こんな縁談、とんだ災難だわ。
ナルド (登場し、跪き)
許して下さい、女神様。
たとえ貴女に迷惑だろうと、優しい心がきっとある、
綺麗な乙女の胸の内には。
セルペ 綺麗だろうと汚かろうと、あんたの為に私はいないのよ。
ナルド もしも、死んでしまっても?
セルペ 泣くとでも思って?
ナルド そんなら、死んでしまうよ?
セルペ あの世でも元気でね。
ナルド いいよ、解ったよ、君の事は。
蛙の面で、馬の耳・・・ほら見てよ。
(ナイフを抜き、自らを刺す振りをする)
止めないのかい?
セルペ どうぞどうぞ。是非とも見たいわ。
ナルド ああもう、一体どうすりゃいいんだ?
こんな侮辱を受ける度に、
何だかもっと火が点いて、何だか心が燃えるみたいだ。
セルペ そうね、段々少しづつ、私の好みに近づいたみたい。
(独白)もう少しだけ狂わせてみたい。
ナルド そりゃ本当かい?それとも意地悪かい?
・・・ああ、嬉しいよ! 自分が自分じゃないみたいだ。
セルペ いいから聞いて。
貴方に付き合ってあげてもいいけど、
その前に一つ歌って欲しいの、愛のこもった粋な小唄をね。
いい?私の前に進み出て、右手は強く胸に当て、
足を引きずって外国風にね。
(ナルド、セルペッタに言われるままにする)
セルペ そうそう、お見事。
ねえ貴方、やって見せてよ。
お辞儀するのよ、それも伸びやかに、煌びやかに、雅やかにね。
ナルド (独白)この笑顔の為なら何だってするさ。
【N.14---Aria】ナルド
ナルド お国のイタリアじゃ、こうやって口説くのさ。
身なりを正して、跪くのさ。
「可愛いお目々に、心はめらめら、言葉も出ないよ」
お国のイタリアじゃ、こうやって口説くのさ。
笑顔を絶やさず、接吻るのさ・・・
お気に召さないって?
それなら、余所の国の真似をするか。
おフランスでは・・・
「ああ、マダム、ああ、マダム、我を見たもれ
ああ、マダム、ああ、マダム、意を酌みたもれよ」
これもいまいち?これもいまいち?
余所の国に移るとして、イギリスでは。
「恋人よ、もっともっと見ておくれ
恋人よ、どうかどうか聞いてくれ
I love you, 愛してる・・・」
(セルペッタがつれないので、怒って)
押せども引けども頑固な高飛車女!
世界中の口説き文句、次々尽くしても、蛙の面に水だ。
男を惑わす手強い女狐だ、
こちとら堪らぬ、どうにも成りゃせぬ。
打っても打っても響きゃせぬ、お手上げだ。
難攻不落の要塞だ、お手上げだ。お手上げだ。お手上げだ。
(退場)
≫≫≫≫≫ 以下略