Henry Purcell オペラ「ディドーとエネアス」
日本語訳詞 by桂木農
※一部をサンプルとして掲載します。
第一幕、第一場
ベリンダ 払い去り給え、悩みの雲を。
涙を忘れて悦びを待てよ。
払えよ、その涙を。払えよ、その涙を。
合唱 涙を払え、憂いを雪げ。
貴女の国を笑顔以て光で照らせよ。
笑顔で照らし給えよ。
ディドー ああ、ベリンダ、どうか解っておくれ。
ああ、けれどベリンダよ、決して訊かないでおくれ、その訳を。
ああ、ベリンダ、どうか解っておくれ。
ああ、けれどベリンダよ、決して訊かないでおくれ、その訳を。
我が世の安らぎは、遠くへ消え去りたるまま。
打ち明けられぬ迷いが、悩みが胸を苛むのよ。
せめても、それでも、明かせぬ悩みよ。
我が世の安らぎは、遠くへ消え去りたるまま。
ベリンダ 誰を愛して?
ディドー 誰にも言えぬ。
ベリンダ つまりは異国のお方に心を。
第二の女 素晴らしきお方よ。我が国を栄えさせる。
素晴らしき報せよ。新たなる国の目覚めよ。
合唱 お二人が結ばれれば、我らが国は栄える。
我らが国は永久に栄える。
ディドー あの方の語る凄まじき物語よ。
心を躍らす美しさ、涙の悲しさ、そして逞しさ!
ベリンダ 哀れな身の上を慰めるも貴女と。
第二の女 男の子を悩ます戦と嵐を・・・
ディドー そう、嵐のような恋が胸に火を点す。
ただ望みは、永久に慰めにと、
それでも・・・それでも、ああ、過ぎた事かも。
ベリンダ┓愉しむ事です、想いを一つに。
第二の女┛ 愉しむ事です、想いを一つに。
ベリンダ┓涙を拭き去り、恐れを忘れ、
第二の女┛ 恃む事です、二人は一つと。
ベリンダ┓愛は花咲き、蝶は飛び交う。
第二の女┛ 愉しむ事です、想いを一つに。
合唱 愉しむ事です、想いを一つに。
愉しむ事です、想いを一つに。
涙を拭き去り、恐れを忘れ、
恃む事です、二人は一つと。
愛は花咲き、蝶は飛び交う。
愉しむ事です、想いを一つに。
(エネアス、登場)
ベリンダ さあ、さあ、ご覧じませ、愛しのお方が。
エネアス さあ、さあ、聞かせておくれ、我が想いへのお答えを。
≫≫≫≫≫ 中略 ≫≫≫≫≫
女魔法使 ほう、奴らの旗が見える。船出のようだが・・・
魔女・1 行く手に待つ嵐にも気付かずに・・・
魔女・2 哀れにも奴らめは、
魔女・1┓罠に落ちた!ホホホ!
魔女・2┛
魔女・1┓奴らめは罠に落ちたのよ!ホホホ!
魔女・2┛
女魔法使 さあ、お次は大嵐で海を荒れさせ、
奴らめが二度と戻れぬように仕掛けて、
妬ましき幸せを壊す。
ディドーはこれで終わり、
ディドーはこれで終わり、カルタゴも終わり!
≫≫≫≫≫ 中略 ≫≫≫≫≫
ディドー 海原は冷たく、夜空は虚しく、
全ては望み無く、我はただ嘆く。
挫けた我が命の慰めは何処にあろう。
ベリンダ 女王様、あのお方が
悲しみを浮かべてお言葉を待ってます。
エネアス ああ、このエネアスは、
ああ、どうすれば良いかも判らず、貴女の赦しを・・・。
ディドー そう、こうも残酷に幸せを捨て去り、
心ない男は二度と戻りはしない。
エネアス 戻ると!
ディドー 戻ると?本当、空々しい言葉よ。
あなたは捨てたわ、愛の花園さえ。
エネアス 今こそ誓おう!神に背くとも留まろう!
ディドー 一度壊した絆は二度と戻らぬ。
何もかもみな過ぎ去った幻よ。
別れを決めた時が、二人の運命の時よ。
エネアス 離れはしない、ずっと・・・
ディドー 駄目、駄目・・・
エネアス 貴女と・・・
ディドー 駄目、駄目・・・
エネアス 貴女と・・・
ディドー┏もう、もう、もう、もう二人の 〜
エネアス┗ ずっとずっと離れはしない。〜
ディドー┏〜 のぞみは絶えて、二度と戻りはしない。駄目、駄目!
エネアス┗〜 貴女の許を、貴女の許を離れはしない。
(エネアス、去る)
ディドー 我が最後の光も、遠く消え失せて・・・。
合唱 気高き心が悲しき運命を定める。
唯一つの望みも自らの手にて閉ざして。
ディドー ベリンダよ、暗き雲が瞼を覆う。
命は冬枯れに静まり消え失せる。
(横になる)
ディドー 冷たき土の中に、独りただ、静かに眠らせておくれ。
冷たき我が胸に、一つの花、静かに手向けておくれ。
忘れて、忘れて、私の嘆きの日を。
忘れて、忘れて、涙を・・・。
忘れて、忘れて、私の嘆きの日を。
忘れて、忘れて、涙を・・・。
(死ぬ)
合唱 舞い降りる雪のように清らかに、清らかに、
清らかな花を、花を飾ろう、無くした愛の代わりに。
そっと、そっと、そっと雪ぎましょう。
そっと、そっと、その悲しみを。
きっと憶え、きっと忘れまい。
悲しきかの運命を、悲しきこの物語を。
〜終わり〜
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